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「はい!」
「おお。良い返事だな水沢。左右どちらに何を書くか覚えているか?」
春日が板書していた記憶など何処にもない。琴の脳内にはクエスチョンマークが飛び交っていた。そんな時に当てられるなんてつくづく運がない。慌ててノートを数ページ遡ると、黒板に書かれた問題と全く同じ板書を発見する。
「右が貸方。左が借方です」
「正解だ。じゃあ次の問題」
間違っていないことに安堵し、琴は溜息をつく。そしてふいに時計に視線を向けて、目を見開いた。時刻は五時間目が始まってから既に三〇分は経過していたのだ。勿論三〇分も寝ていた記憶など無く、目を瞑っていたのはほんの数分、いや数十秒だとばかり思っていたのだが、どうやら違うらしい。幸運なことに春日や他のクラスメイトにはばれていないようで、それだけが救いだった。
まさか入学から二週目にして寝てしまうとは。特別真面目でもない琴だが、教師や目上の人間から悪いイメージを持たれるのは避けたいため、小学校からある程度真面目なふりをしてきた。家と学校での様子が違うのはある程度誰にでもあることだと思うが、琴は他人よりギャップが激しいらしく、それは里子のお墨付きでもある(フォローを入れるが、決して家での素行が悪いというわけではない)。
「(今日は早めに寝よう)」
きっと疲れているんだ。琴はそう決めて、再び黒板と向き合った。
ホームルームが終了し、睡魔との闘いから開放された琴は、この後の部活動組織編制のために教室を移動しようとしていた。なこと途中まで移動しようかと思ったが、なこの入部するバドミントン部は視聴覚室、家庭科部は家庭科室で行うということで、それは叶わなかった。このクラスにも帰宅部はいるのだろうが、わざわざ探す気にもならず、一人教室をあとにしようとすると、一色に話しかけられる。
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