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家庭科室には琴が予想しているより多くの生徒が集まっていた。しかしその大半は琴が苦手とする、所謂「ギャル」と呼ぶに相応しい身なりの子たちが大半であった。比較的大人しめな生徒もちらほらいるが、それはあくまで前者と比較してである。一年生がいたら話しかけてみようかと思ったが、それはやめることにした。席に着こうと周りを見ると、皆調理台の周りに適当に座っている。特に場所は指定されていないらしいが、後方の調理台にはグループを作った女子生徒が既に陣取っていた。琴は仕方なく前列の廊下側の席に座った。
「今日って何時くらいに終わるの?」
「エリ今日彼氏迎えに来るから早く帰りたーい」
明らかに早く終わらせろという主張をしている女子生徒の視線は、黒板の横に立っている気弱そうな年配の女性教師に向かっていた。それに気づいた女性教師は気まずそうに目を泳がせている。その様子を気の毒に思いながら見ていると、少し茶色がかった髪をポニーテールにした女子生徒が黒板の前に立ち、時間を確認して、女性教師に始めてもいいですか?と聞いた。苦笑いをしながら小さく頷いたのを確認すると、女子生徒は正面を向いた。
「それでは、これより家庭科部の組織編制を行います。家庭科部は活動も少なく、所謂帰宅部と言われる部ですが、とりあえず年の初めなので、自己紹介から始めたいと思います。それではまず私から……。部長の前川文恵。二年五組です。」
よろしくお願いします。と頭を下げた文恵は、勝気そうな猫目が印象的な少女だ。特に返事や拍手が起こるわけでもない教室内だが、文恵に気まずそうな雰囲気は感じられない。じゃあ次はそっちからね、と積極的に会を進めていく凛とした姿は、琴にとって魅力的なものであった。
全員の自己紹介が終わり、議題は次に移ろうとしていた。文恵が黒板にチョークで書いたのは「副部長」の三文字で、それを見た瞬間周りの生徒たちは一斉に我冠せずといった雰囲気を出し始める。
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