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「副部長と言っても、この部活は活動数も少ないし、主な仕事は今日みたいな会の進行、記録、調理の準備、買出し。そして文化祭で家庭科部の出店をする際の中心になってもらったりとか、そのくらいです。特に忙しい仕事でもないので、出来れば進路で忙しくない三年生以外から出てもらえれば嬉しいんですけど、立候補者は……」
沈黙。そうなるのは分かりきっていたようで、文恵はですよねーと苦笑いをしていた。決まらなければ進まないので当然帰れない。早く帰りたいわけではないが、居た堪れない雰囲気から早く抜け出したいのは自分だけなのだろうか。
「困ったな……」
授業等でもそうだが、この問題分かる人は挙手してくださいと言われて誰の手も上がらなければ、大体その日の日付と同じ出席番号の生徒が当てられるというのが定番だ、しかし今回のように、その手段が使えない場合利用される手がもう一つある。それは、その時偶然視線が合った人間を指名することだ。今、正に琴と文恵の視線は合っていた。人と目を合わせることは得意ではないが、一回合わせてしまうと逸らせないのが琴の弱点であった。水沢さん、お願いしていいかな?と口にしないながらも、オーラがそれを琴に伝えていた。そして数秒後、琴は根負けしたかのようにそろりと手を上げるのだった。
「引き受けてくれてありがとう!本当にごめんね、偶然目があったから思わず……」
「いいえ」
結局他に立候補者も推薦もなく家庭科部副部長に就任し、初めての仕事である記録をしていた琴に、文恵がそういった。絶対やりたくない、と思っていたわけではなく、年功序列的な考えで二年生がやるものだと考えていたので、琴はまさか自分が指名されるとは思っていなかったのだ。
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