0人が本棚に入れています
本棚に追加
行きたくないというなんとも子どもじみた理由に文恵は首をかしげた。因みにどこの高校か聞いてみると、小さな声でとある高校の名前をだす。その答えを聞いて文恵は失礼だと思いながらも納得してしまった。琴が行きたくないと言った高校は、偏差値が平均に到達するかしないかくらいの普通高校だが、イメージは所謂ギャルやチャラ男の多い学校であり、お世辞にも素行の良い生徒が多いとはいえない学校だ。確かに品行方正
なイメージのある琴には馴染みにくい学校である。
「ごめんね。変なこと言わせちゃった」
「いいえ……。本当は高校でも続ける気で、中一の頃からここに進学するのは決めてたんです。中学時代の顧問がたまたまソフト部の監督だった先生とお知り合いだったそうで、よく話を聞いていました」
「ああ、平瀬先生のことだね」
「知っているんですか?」
「名前だけ。詳しいことはあまり知らないけど」
そこで会話は途切れた。琴は板書を最後まで移し終えると、最後に記録者名に自分の名前を書いた。これを誰に提出すれば良いのか文恵に質問すると、自分が明日顧問に提出するから良いよ、と琴の手の中から用紙を抜き取った。
家庭科室を施錠して渡り廊下に出れば、部活編成を終えた部活動が準備をしている最中のようで、バスケ部、バレー部、陸上部がぞろぞろと第二校舎から部室棟に向かって出て来るところだった。仕方なく二人で通り過ぎるのを待っていると、奥から坊主頭の集団が歩いてくる。野球部だ、と文恵が小さく呟いたのが聞こえた。先頭を歩いてるのは先週の金曜日にぶつかりそうになった部長の前川だ。隣には前川より若干背の低い部員が並んでおり、こちらを一瞥すると、前川の耳元で何かを話していた。その光景に嫌な感じを覚えた琴は、あまり目が合わないように目を逸らす。もしかして自分のことを覚えていて、それを何かのネタにでもされたのだろうか。被害妄想ばかりが脳内を駆け巡る。
最初のコメントを投稿しよう!