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例えばそれがどんな感情だとしても、向けるのと向けられるのでは大きく違う。琴はどちらかといえば異性に好意を抱いたり、自ら人の中に入っていくことが苦手だが、逆に人に頼りにされたり、好意(とは言っても男性からのアプローチを受けた覚えは無い)を向けられることにはそれほど抵抗は無い。お世辞にも社交性があるとは言い切れない性格である琴は、大人しく控えめで、内向的という印象を持たれることが多いが、実際はそうでもない。そもそも小さい頃からスポーツ少年団に所属し、尚且つチームの司令塔となるポジションでプレーをしていた琴は、もっぱら大声で指示を出したり、守備の指揮を執ったりする中心的な立ち位置にいたため、他人が思うほど内向的でも気弱でもない。ただ、少しだけ男性に苦手意識があることと、「知り合い程度」の人間と上手く付き合っていく上で猫を被っているのでそう見えるだけなのである。
組織編制の翌日から、廊下をすれ違ったりする度に感じる視線がある。その視線の持ち主は、月曜日の放課後に一色と共に歩いていた野球部員だ。一年一組山本純。性格は強気で短気。そして稀に天然で純粋。そう教えてくれたのは、一組に部活が一緒の生徒がいるというなこだった。山本がわざわざ琴が感じるくらいの視線を送ってくるのは、恐らくマネージャー云々の話を聞いたからであろう。一度断ったというのに何故こうもしつこくにらまれ続けるのか、琴は少しだけ疲れていた。
「琴ちゃんお昼食べよー」
「私今日お弁当じゃないから買ってくるね。少しだけ待ってて」
「じゃあ私も行く!」
昼休み。昼食を購入するため王崎商業の購買である「王崎デパート」に向かおうと、二人は教室を出た。何故購買部という名称ではなくデパートと名づけられているのかと言うと、商業高校の多くは校内に模擬株式会社を設立し、委員長である社長を中心にデパートを経営しているからである。資本金の中には全校生徒からの株も含まれており、年に一度の株主総会が行われるのが普通高校と大きく違う点と言えるだろう。
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