第5話

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「山本君って本当に聞いた通りの性格だなあ。琴ちゃんも大変だね」 「笑い事じゃないよ! すれ違うたびに睨まれるこっちは疲れるんだから」 「だって見てると面白いんだもん」  なこの意地悪そうな微笑琴からしてみれば面白くなどない。他人同然である山本から睨まれても特に怖いと感じることはなく、寧ろ迷惑極まりない。明らかに自分に非が無いことが分かりきっているのに攻撃されるのはとても不愉快だ。琴は声に出さず不満の感情を脳内に言葉で並べる。それは信頼の置ける人間や家族の前でしか出さない琴の素であった。 「山本君が私を睨む理由がマネージャーをやらせたくないからだとしたら、今も睨まれ続けてる理由が分からない。組織編制だって終わったのになんでかな」 「まるで彼氏の浮気相手への怒りを引きずる女の子みたいだね」  にこり。可愛いとしか良いようのない笑顔で話すなこのそれは、小悪魔という言葉がぴったりだ。あまり怒らせないようにした方が良い。第六感が発した危険信号が琴にそれを教えてくれたような気がした。  山本のことを気にしつつも、雑談をしながら昼食を終える。なこが借りている席の主が他の場所で談笑していることを確認すると、そのまま二人は話を続けた。するとそこに、女子生徒が話を遮って声をかけてくる。少し明るめの長い髪が印象的な生徒だ。 「水沢さんに、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、良い?」 「私?」
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