第5話

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「麻衣子ちゃんか恵理香ちゃん、一色君のこと好きなのかな。一色君なんだかんだ琴ちゃんに話しかけてくるし、気になってるのかもね」  一般的に女子が「あの手」の話をする場合、答えがどちらであろうと、質問をする側にしてみれば「交際しているか」より、「親密かどうか」の方が重要だ。そしてこういう質問をする人物は、単に興味がある場合と、自分と交流がある人物と、相手が好意を抱いている人物が同じ場合があるが、遥たちは明らかに後者である。あの三人の誰が一色に好意を抱いているのかは分からないが、ああいう風に話しかけられるのはあまり喜ばしいことではない。様子を伺うようにこちらを向いていたクラスの女子生徒たちも、それぞれの会話を再会させたらしく、視線はもう感じない。琴は少し苛立ちを覚えた。男子が苦手な琴であるが、「女子特有」のああ言った変な勘ぐりや突っかかりは苦手と言うよりも嫌いなのだ。特に恋愛が絡むと女子は余計なことをしない。それは琴の持論である。 「琴ちゃん。少し怒ってる?」 「え?」  なこが恐る恐る琴の顔を覗き込んできたと同時に、琴は現実に引き戻されたかのようにはっとした。思わず自分の右頬に手を当てると、なこが苦笑いをしながら左頬を指で突く。 「別に怖い顔してたとかではないんだけど、琴ちゃんって基本奥ゆかしくて謙虚なイメージだから、ああいう感じの受け答えの仕方するのがちょっと珍しいっていうか」 「奥ゆかしいって……。なこちゃんは、私のこと過大評価しすぎだよ」 「そうなの?」 「確かに自分がそういう風に思われるっていう自覚はあるけど、けっこう毒吐くこともあるし、人並みに悪口だって言うし、それに」
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