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「俺はお前が気に食わない。だから、一色にあんま近寄るな」
「……はい?」
「お前が変にあいつに関わるからあいつが浮ついてんだろうが」
「……意味が分かりません」
なんとも一方的な山本の発言は、琴の苛立ちを増幅させるだけだ。山本が自分をしつこく睨み続ける理由は想像と大方合っていたが、そこに山本の個人的な感情が付け加えられているのがどうも気に入らない。仮に山本の発言が真実だとしても、一色には悪いが、自分を話題にしようが浮ついていようが、琴にはなんの落ち度もないのだ。しかもそれを当の本人ではなく(本人が言うのもどうかと思うが)第三者から伝えられるなどとんでもない。この時琴は、山本を「嫌いな人間」のカテゴリーに分類したのだった。
山本はそれ以上何かを口にすることなく、最後に琴を上から見下すように睨み付けてその場を去っていった。折角部活でケーキを作り、気分良く帰ろうとしたのだが、これでは全て台無しだ。紙袋を持つ手に力が入る。
「(明日からは一色君となるべく関わらないようにしよう)」
山本の言うことを聞いてしまえば負けたことになってしまうようで気が引けたが、自分はそんなに子どもではないのだと、心を落ち着かせるように、琴は自分に言い聞かせ、帰路に着いた。
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