第6話

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「結構時間かかったね」 「そうですね」  文恵は両手に持っていたスーパーのレジ袋を家庭科室の調理台において、両手首を振った。琴も自分の両手を塞いでいる袋を隣に置く。中には砂糖や薄力粉などお菓子作りの材料が入っている。それは、今日授業が終わってから買出しに行った、今年度初となる家庭科部の調理に使われる食材だ。 いくら帰宅部とは言え、活動がなければ部活動としては認められない。その点家庭科部は女子のみで構成され、調理活動がメインのため、比較的部活動への参加率は良い。しかし、毎日活動している部活とは違い部内の組織が機能していないため、通常ならば役割分担をして決めるような事前準備等も部長・副部長がやらなくてはならないのが難点だ。組織編制時に年間予定を決めているため、ある程度買わなくてはならないものも決まっているのだが、ただ作るだけでは部活動としての意味があまり感じられないというのが、家庭科担当の相川の意見だった。 「相川先生気弱そうなのに、これだけは拘るんだよね」 「でも野菜を使ったお菓子作りってあまりしないですよね。私そういうの好きです」 「良かった。実際買出ししてみて嫌だと思われたらどうしよかと思ってたんだ。……じゃ、班毎に全部分けちゃおうか」 「はい」  用意されていた籠に、材料を詰めていく。その材料を見ながら、お菓子作りなど一年ぶりではないだろうか、と琴は昔を振り返った。毎日部活でへとへとになっても、一年に一度のバレンタインだけは夜遅くまで起きてお菓子作りをしていた。しかしそれは好意を寄せている男の子にあげるわけではなく、あくまで仲の良い友達や家族にあげるためだった。そう考えると琴にお菓子作りの経験など殆どないに等しいわけだが、明日は大丈夫だろうか。何かを失敗する様子が脳裏に浮かび、それを打ち消すように頭を振る。 「(ヘマだけはしないようにしよう)」  ほうれん草を片手に、琴は心の中で呟いた。
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