第6話

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  出来上がったシフォンケーキはほんのりほうれん草の良い香りを放っていた。お菓子作りを久々に行った琴も特に大きな失敗をすることなく、ほっと胸をなでおろす。ケーキを冷ましている間に全員で片つけを行い、洗い物や余った食材を冷蔵庫に仕舞う。事前準備、調理、後片付けと、一連の活動を終えてみて、自分が思っていた以上に活動が充実していることに琴は満足していた。活動は月に一回程度だと言っていたが、なかなか良いかも知れない。それが琴の素直な感想だ。作ったお菓子を食べさせてねと笑顔で琴を学校に送り出した里子に、今日の話をするのがとても楽しみになり、心なしか浮かれている自分がいるような気がした。 一班の人数は三人から四人。対してシフォンケーキは直径一五センチの型で二つ作った。琴と文恵の班は三人で作っていたので、それをどう分けるのかと考えていたら、もう一人の生徒は、文恵がいつも野球部にあげていることを知っていたようで、文恵が食べる分も残るようにと、一つを文恵に、もう一つ二人で半分ずつにすることにした。 「ごめんね。秋谷貰えないと拗ねてうるさいからさ」 「秋谷君は母性本能をくすぐるのが上手だよね。文恵ちゃんが断れないのも分かるよ」 「そうなんだよ。お兄ちゃんには餌付けもほどほどにしとけって言われちゃうし」 「あはは。想像つくなあ」 「あ、勝手に話してごめんね。秋谷ってうちのクラスの野球部なんだ」 「はい。部活始まる前に先輩にお菓子せがんでいた坊主の人ですよね。」 「文恵おせーよー!!」 後ろから見ていました。と言おうとした瞬間に、大声と共に勢いよくドアを開いて家庭科室に入ってくる生徒が一人。それはたった今話題に出ていた秋谷だった。部外者の登場に相川や生徒が騒然とするのもお構い無しに、秋谷は文恵がいるテーブルに早足で向かってくる。そして調理台の上に簡単に包装してあるシフォンケーキを見てまた大声を上げるのだった。
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