1844人が本棚に入れています
本棚に追加
/92ページ
「そのアザラシの仮装」
「僕らが考えたんだよー!」
「…………」
ほおぉ、てめーらが元凶か。
クソッぶん殴りてえぇぇ。
「ねぇ何で黙ってんの?」
「もしかして寝てる~?」
「ぐふっ!?」
こ、こいつら今……仰向けで寝てる俺の腹を踏みやがった。
「あ、今ぐふって言ったよね。なら起きたよね」
「じゃあさ何か面白いこと言うか、やって見せてー」
はあぁあ?
意味分かんねーよ。
つーか今すぐその汚い足退けろドッペル。何ならいっそ大量に毒きのこでも食って笑い死にしろ。それこそ好きなだけ笑えるぞ。
と、声に出して言えないのが心底残念だ。
「すみません、疲れてて本当に無理です。あ、あの、お願いですから踏むのもやめて貰えますか」
「え~? つまんない!」
「アザラシくん最悪~ッ!」
「…………」
気弱そうな感じの口調で頼むと、そう返される。最悪なのはお前らだ。
「もぉ~、白けちゃった。じゃあ別にいいや。そろそろ着替え終わるしぃ?」
「だねー、もぉ行こっか」
着替え? ああ、転入生のな。
さすがに女装したままは嫌だったのか、ゴールしてすぐ着替えに行ったらしい。
要するに双子にとって俺は転入生待ちの暇つぶしかよ、ったく。
とっとと転入生の所へ帰りやがれ。
「あ、そうだ」
「!?」
動かぬアザラシ(俺)に興味を無くし、あっさり立ち去る双子書記。と思ったらその片割れだけが急に引き返して来た。
仰向けに寝転がるアザラシの腕(ヒレ?)部分に、冷たい何かを押し付けられる。
いやまぁ辛うじて持てるけど、何だこれ。
「それ、ある人に用意したんだけど必要無くなったからー……もぉ捨てるしかないゴミだし、アザラシ君にあげる。まだ冷たいから、飲んで疲れをとってね」
「え」
そのまま「レース面白かったよ、じゃあね~」と、どうやら缶ジュースらしき物を残して去って行く。
……なんだよ、調子狂うじゃねーか。
ある人、ってのは転入生のことだろうけど。
わざわざ用意したのに飲んで貰えなかったのか? それはまた何と言うか不憫だな。
――って、いやいや!
何で真面目に同情してるんだろ、俺。
.
最初のコメントを投稿しよう!