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おかげで嫌な話を聞かされる羽目になったし、まったく。来なけりゃ良かった。
んで。
計画を実行する気でいるならこの階段を下りていく筈。
ほら、やっぱな?
躊躇なく軽やかな足どりで目的地へ向かいやがった。
(チッ、何で俺が)
三人の気配が遠ざかると同時に、方向を変え静かに走り出す。
Aクラスは確かにこの階の下だが、教室自体は廊下の反対側。つまり別の階段を使えば、あいつらより先に――……
***
「分かりました、ありがとう!」
お礼の言葉を残して1-Aの教室前から立ち去る、不運な平凡くん。
その後ろ姿を見送っていた俺……を訝しげに捉えながら近付く先程の三人。
うん、結構ギリギリだったわ。
それにしても廊下の混雑っぷりが逆に幸いするとはホント皮肉だな。
「ねぇそこの君、今向こうに走って行った彼に何て言ったの」
「え、あ、僕ですか?」
「そう、君だよ。今何か話してたよね」
ニッコリと笑顔を振り撒きながら話しかけてくる三人。
俺より身長が低い相手に気弱な平凡を装いつつ返事を……って、こいつら年上か。
一年の俺とはネクタイの色が違う。
それじゃあ、滅多に話せない憧れの可愛い先輩相手に緊張してます感でも、ちょい足しとこうかな。
「えっと、あの、僕はその」
「もしかして緊張してる? 一年生だよね君、彼とは知り合いなの」
「い、いえ! 違うんですけど。さっき職員室で先生に頼まれまして……何か急な雑用係を探してるとかで」
「先生に? 雑用?」
「はい、その。暇そうな生徒を呼んで来いって頼まれて。さっきの人には、たまたま目について声を掛けただけって言うか」
うーん、我ながら苦しい説明だ。
じゃあどうして別れ際に向こうがお礼言ってんだよ、って話だし。
まあ、三人には聞こえてない筈だから良いか。
ちなみに不運な平凡くんと実際に交わした言葉の内容とは
『風紀室に急いで来るよう伝えてほしい、と委員の人から頼まれた』
――だ。
もちろん実際は誰にも何も頼まれていないけどね。
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