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「いや、その彼に礼を言わなくてはと思ってな」
「え? あ、はい」
その後
『すみません、トイレへ行ってる間に対象を見失いました!』と半泣きで連絡をしてきたガード役の風紀委員。
彼に鬼の雷が落ちたことは言うまでもない。
***
さらに同時刻、こちらはまた別の某所。
「……送信っと。あ、ついでに風紀のPCにも証拠として悪巧み連中の音声データ送っちゃおー。うっふふ、学園内のあちこちに盗聴器仕掛けといて正解だったよね、俺。さっすがー!」
自画自賛しているが犯罪である。
「なのにさ、あの子ったら酷いよね。俺がこんなに頑張ってるのに……しかも無償で。久々に電話くれたかと思ったらあんなどうでもいい奴を助ける為だなんてさぁ……しかも無償で」
自分しかいない部屋の中、PCの操作を手慣れた動きで続ける生徒。
ぶつくさとやたら「無償」にこだわってはいるが、口角の上がったその表情は実に愉しげだ。
依頼された(それ以上の)作業を終えキーを押すと、1-A前の廊下を見下ろす角度で撮影された隠しカメラの画像がディスプレーに映し出される。
どうやら録画されたものらしく、先程の不運な平凡くんや、彼を狙う三人組とのやりとりが何度も繰り返し流れ続けていた。
そして、食い入るように見つめる先には数分前の電話の相手。
その姿を愛おしむようにゆっくりと画面を撫でる……。
「本当、俺の気持ち知ってるくせに酷いよなぁ」
だからこれは、ちょっとした嫌がらせ。
「風紀に知らせろとは言われたけどー、情報元を知らせるな、とは言わなかったよね?」
風紀委員長へ送ったメール文の、最後に添えた【海豹】の文字。
海豹……アザラシ……。
まぁあれで個人が特定出来るかは疑問だけどね、と嘲るようなつぶやき。
何故なら彼の存在を風紀や生徒会などから隠し、護っているのは他の誰でもない、この俺なのだから――。
あいつらがもし本当の彼を知ったなら、例の天使のような外見をしただけの転入生なんか瞬時に忘れ去ってしまうだろう。
「でも今はまだ駄目、あの子は誰にも見つけさせなーい」
うっふふー、と笑いながら再び画面を切り替える。
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