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この病院に赴任してきて以来、怒った顔を見た事がないという評判を受けて来た亮介が初めて怒声に近い大声を上げた。
「こんな残酷な事を、僕に二度も言わせないでくれ!」
場の空気を察した宮田が看護師長らしい凛とした口調で命じた。
「点滴中止。聞こえたでしょ!」
看護士たちが美穂の腕から点滴用の針とチューブを外し、輸液のパックと吊り下げる器具を運び出して行った。
亮介はベッドから立ち去る寸前、両腕で意識のない美穂の頭を抱きかかえ、かすかに嗚咽を漏らした。
床にあふれる患者の体を慎重によけながら暗闇の中を横切り、ろうそくの灯る院長室にたどり着く。
白髪頭がわずか一日でさらに白くなったような院長の前に立ち、亮介は自分でも驚くほど落ち着いた口調で報告した。
「第二回トリアージ、完了しました」
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