第1話

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 その絶望的な状況は、東日本大震災発生当日よりも、その二日後から始まった。薬品の発注リストを事務室へ届けに行った亮介は、緊急事態用の衛星電話に向かって事務長が怒鳴り散らしている場面に出くわした。 「放射能って……ここには避難指示は出ていないじゃないか。それはおたくだって分かっているはずじゃないですか! 何とかならんのですか?」  禿げ上がった頭頂部から湯気が立っているようにさえ見えた。顔をしかめて衛星電話を切った事務長に、亮介は遠慮がちに声をかけた。 「どうかしたんですか?」  事務長は亮介がそこにいる事に初めて気づいたらしく、一瞬驚いた表情になったが、すぐにいつもの事務的な口調に戻って答えた。 「牧村先生。どうもこうも、薬が来ないのですよ」 「どういう事です?」
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