東川弘の日常

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「それとも何?私から先輩って呼ばれたいの?セ・ン・パ・イって?」 葵はニタニタと笑いながら、上目遣いでそう聞いてくる。 「サークルに入った時はその呼び方だったぞ」 「カップルなのに先輩後輩気にしちゃダメダメ。もっと親しく行こうよ」 「そういうのは先輩が後輩に言うべき言葉だと思うがな」 弘は大学3年生であり、二歳年上である。 しかし雰囲気はすっかり葵のペースだった。 だが弘はそんなことに不満などなかった。 どちらかといえば、そんな風に振り回してくれて、常に面白味のある所に弘は惹かれていた。 消極的な性格である弘からすれば、葵は知らなかった新しい世界を次々と教えてくれる先導者だった。 何処の喫茶店のコーヒーが美味しく、隣街の人気スポットはあそこで、どうすれば服の着こなしが良くなるのか。 葵と知り合って僅か二ヶ月、弘は見違えるように変わっていた。 それは性格的な意味ではなく、地味だった弘がお洒落になったという意味だが。
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