夢の痕

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 通う者は途絶え、それが導くものは消え――最早存在の意味を失ってしまった「参道」を、独り往く。自分は、一体何をしているのか? そんな疑問を、浮かべては沈める。よく考えなくても、意味も意義もないことなのだ。己が目指している場所も、人も、既にこの世界に存在していないのだから。有るのはただ、自身の胸の奥底に眠る幸せな過去だけ。凍り付いた時間は、忘却してしまわない限り、俺という哀しき男を待っていてくれる。  獣道の様を呈する道を進み、おおよそ30分。何年も、何十年も使われていないような草むした石段を昇れば、夢の跡地はそこに在る。森の中には不適当な、人為的に切り開かれた空間。生え放題の雑草が、この場所に人の立ち入りが殆どないことを伝えている。元々この地に何が在ったかなど、自分以外に知る者は居ない。たとえ物好きな老人が此処を訪れたところで、何時かの信仰心が甦るとも思わない。  ちょうど去年の今頃まで、この場所には、歴史ある大きな神社が建っていた。しかし、日に日に薄れ行く“信仰”と、科学的で現代的な思想に圧され、より多くの信仰心を求めて「この世界」から無くなった。まるで初めからそんなものが存在していなかったかのように、人々の記憶からも消失した。  俺は、この神社に特別な思い入れがあった。神社、というよりは、此処の巫女さん――東風谷 早苗という少女に、の方が正しいかもしれない。彼女は、自らが仕える神社と共に、“世界”から消えた。今、彼女が、何処で何をしているのかを知る術はない。生きていてくれさえいれば、それに超したことはない。 「あら、貴方も“参拝”?」  突然の声に振り向けば、そこに立っていたのは、言葉に表しにくい服装(こんな奇抜な「普段着」は、今までテレビなどでも見たことがない)の、日傘を携えた女性。その妖艶な微笑みは、初見の筈なのに、まるで自分の総てを見透かしているかのようで、とても気持ちがいいものではなかった。  そして、彼女の口から出た「参拝」という言葉。自分以外の記憶から消えた筈の、この神社を憶えているに違いない。――意味が、分からない。そもそも、あの怪しさ全開の女性は何者なのか。少なくとも、神社の関係者とは思えないが。
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