夢の痕

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「んー……まぁ、そんなところか。で、貴女は? 此処に神社が在ったことを知っているから、“普通じゃない”ってのは何となく分かるんだけど」  投げつけた問いに、彼女はわざとらしく傘を傾けて答えた。 「私は八雲 紫。貴方々人間の云う、『妖怪』のしがない1体よ。宜しくね、斎條 優輝君」  「人間」ですら、なかったらしい。 「妖怪?」 「あら、思ったより動じないのね。お姉さん残念だわぁ」  得体の知れないものに対して、恐怖心を抱く。どうやらそれは、元々が“異常”である俺にも違わないようだった。かつての自分が他人に怖れられていたように、今の俺も、目の前の女性――「ユカリ」にそのようなものを感じている。  先ず「妖怪」なんてものは文献・言伝てでしか聞いたことがなく、況してや初見である筈の俺の名を言い当てたのだ。人知を超えた存在、とでも言ってしまえば終わるのだが、如何せん気味が悪すぎる。 「で、その妖怪さんがこんな所に何の用だ? 仮にも神社の跡地なんだが」 「用が有るのは貴方よ、貴方。こんな格好だもの、人目に付くような場所には出られないでしょ?」 「……着替えればいいだけなんじゃ」 「なら此処で着替えましょうか?」 「止めてくれ」  冗談よ、と彼女は笑う。俺としてはとても笑っていられる状態ではないのだが、ユカリの気に中てられてしまったのか、口角が上がっているのが分かった。 「そろそろ本題に入ってもいいかしら?」 「あぁ、俺に用事だっけか」 「色々訳があって、私にもあまり時間がないのよ。だから簡単に纏めて伝えるわね。一度しか言わないから、よく聴くように」
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