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スイはその古びた本を、手元でくるくると見回した。
なんてこともない。
重厚というよりは、ちゃっちいという言葉のほうが似合う。
ただ、他と違うのは錆びた鍵がされていることだった。
「坊主。気になるのか?」
顔をあげると、人の良さそうな店主が柔らかな笑みを刻んでいた。
「あ、あぁ」
唐突に声をかけられ、スイは動揺してしまった。
「いいぞ、それは売りもんじゃないし。欲しかったらやるよ」
店主は快活に笑い、ひらひらと手を振った。
「え…」
スイは思わず、店主と本を交互に見比べる。
流石にそれは、店主に悪い気がした。
「気にするなって。どうせもらいもんだし、長年の売れ残りだ。商品の価値なんてないよ。鍵もないから開けられないしね」
カラカラと笑う店主は、嘘をついてるようにも見えない。
どうも返しづらくもあり、スイは店先に並んでいた商品を一眺めした。
そして安いお菓子を二人ぶん買うと、キィと共に、その場を後にしたのだった。
───by Kino
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