Daiary

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 いけないことはないが、幅広く出題範囲をとったそれは、昨日までの先輩には解けなかった問題だ。  「あはは、ホントだ。可笑しい。どうして勉強が楽しいんだろう」 彼女は僕の表情を見つめて、クスクスと笑った。  「……」  「そんな不思議な顔しなくてたって大丈夫だよ。教えてくれてる人が優秀なだけ」  「昨日ね、いっぱい勉強したの。君と絵を描いて、お話する時間を増やしたかったから、いっぱい勉強したの」  子供の頃の思い出を語るように、先輩が目を閉じて答える。  なぜか、頬が熱くなった。  「雨、早く止まないかな。余計なこと喋っちゃいそう」  それ以上も以下もなく、微かな沈黙。  やはり夏の雨は、感傷的になるものだ。  普段なら軽口のもっていくであろうに、僕は先輩の唇を、じっ、と見つめていた。  「……知ってる? わたし、ホントは愛想のない子なんだ」  「そうなんですか」  相槌だけ打つ。  平静は保ったつもりだったが、今まで一番下手な演技だと思った。  「あまり驚かないのね」  「以外?」  そうでもな、と彼女はプリントの空欄を埋めながら首を振った。  手が微かに震えている。  嘘に気づくような余裕もないらしい。  「そうだよね。みんな知ってる。わたしはあの男の娘だもの」  「それは――」  僕の口に指を当てて、泣くことも声を荒げることもなく、強い意志を秘めた目を細めて、彼女は笑った。  「そう、違うの。それは違うの。言い訳にしかなってないもの」  「みんを避けてるものがあたしなの。臆病で弱虫。だって怖いもの……」  「なにが?」  「あはは、仲良く出来るか試して……それで失敗したら負けじゃない」  雨音にも負けるような小声で先輩は目を閉じる。  ビシッ――と、窓が割れたような音がした。  驚いて顔を上げるが何もない。  見ると、グラスの中の氷が、キリキリと軋んでいた。  「でもね、わたしはみんなが好きなの。人とか動物だけじゃなくて、空とか石とか、ひまわり抜かしたらみんな好きなの」  「ひまわり嫌いなんだ」  「……美味しくないもの」  味なのか?」  「だから――」  机に寝そべり、先輩がふぅ、と溜息をつく。  「嫌われてるのはわたし……わたしの敵はたわしだから」  「……」  ・  ・  ・  ・  ・  「たわし?」  「……たわしも食べられない」  
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