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何気なく先輩の顔を覗きこむと、すぅ、すぅ、と寝息を立てていた。
「会話の最中に寝れるとは……」
もしくは、途中から全て寝言だったのか。
「まったく……」
僕は頭をかいて窓を閉めた。
シーツだけでもかけてやろうと、ベットに近づくと、サイドテーブルの上のノートが、風の悪戯かめくれていた。
そこには、魅惑のポエムではなく、数式と英単語が、耳無し芳一のようにびっしりと書きこまれていた。
「まったく……」
僕はもう1度頭をかいて、ノートを閉じる。
その表紙には『Daiary』とタイトルが書かれていた。
綴りが間違っている。
『凄い……』
真っ黒なワンピースと、真っ白な帽子をかぶって、お母さんが黄色いひまわり畑に目を細めた。
もう習慣化している。
夢は目覚めると忘れるのだが、夢を見だすと、以前の内容を思いだす。
しっかりと時系列を踏んでいる夢に、憂鬱な気分になる。
「やだなぁ、起きたらわたし、泣いてるかも知れない……』
この後の展開は悪夢だ。
半ば確信的に呟いたところで、幼いわたしが登場した。
『凄いでしょ?』
『うん。凄いね、よくこんなところ知ってたね』
わたしの手をひきながら、お母さんは、はぁ、と再び溜息をついた。
『お母さんはそこに座って』
『はいはい』
『じゃあ、わたしはちょっと離れるね』
遠巻きに、どの角度から描こうかと動き回るわたし。
それを見て苦笑いしながら、お母さんは草の上で足を崩した。
・
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穏やかだ。
ここが世界の中心のように思えてくる。
海風が吹くたびに、何千本ものひまわりが一斉に揺れた。
幻想的な光景に、わたしも、心奪われて立ち止まる。
ここ以外の時間は止まっているのではと、そんな錯覚を覚えた。
『ねぇ、みく……』
母親の声に現実が戻る。
『お母さん、ちょっと疲れたから、横になってもいいかな……』
『え。うんいいよ。寝ててもいいから』
スケッチブックの道具を用意して、わたしはほほえんだ。
お母さんは、ひまわりに帽子をかぶせると、心地よさそうにその足下に寝ころんだ。
『……良い天気』
『ほんとーに良い天気だね』
空を見上げて、わたしは青い絵の具の量を少し多くした。
『みくはお日様が大好きね……』
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