Daiary

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 よく分からないけれど。  自分が一番分からなかったけれど、  とてもとても長い時間。  僕は彼女を抱きしめていた。  ・  ・  ・  ・  ・  「あはははは。だめ、ばか、わたし」  ベットの上に座り、シーツをいじりながら、先輩がニコニコし続けている。  「……あの、そんなに笑われると、僕が恥ずかしいんですけど」  先輩の椅子に座って、窓の外を見ながら僕は呟いた。  深くにも、頬が熱い。  抱きしめただけでこんな反応されれば、それは恥ずかしい。  いつも一緒にいることが普通だった先輩に、どうして異性を感じてしまったのだろう。  雨は止む気配はなく、開け放たれた窓からは涼しい風が吹き込んでいる。  なにもかもが嘘だったように思えた。  ただ、先輩が幸せそうに笑いっぱなしなことを除けば。  「う~ん。雨、止みそうにないねぇ……」  スケッチブックに、ただの丸とか三角を描き続けながら、彼女はラブレターを書く中学生のように、困った苦笑いを浮かべていた。  頬がむずかゆくなるのを堪えきれず、僕は深呼吸して立ち上がった。  「……それじゃあ、僕、帰ります」  「え?」  パキ、と鉛筆の芯を折って、先輩が不思議な表情で僕を見た。  「ゆっくり休んで下さい」  「……傘、もってる? 泊まっていく?」  布団にくるまった先輩が、とてもやさしい声をかけてくれる。  どちらを期待しているのか、よく分からない。  僕は扉を開き、降りしきる大粒の雨を見て、彼女に微笑み返した。  「少し頭を冷やして帰ります」  スキップするほど幼くはなかった。  「……はぁ」  商店街の真ん中で立ち止まり、空を見上げて大きく深呼吸した。  むせ返るような雨の――空の匂い。  シャツが重く肩ににしかかり、火照った肌が急速に冷えていく。  場に流された感はあった。  拒まれない自信もあった。  OK。  歯止めが利かなかったのも認めよう。  ただ、本当に愛しているのか?――そう問われると言葉につまる。  好きとも愛してるとも一言も言わず、何も考えず、ただ抱きしめただけではなかったか?  前髪が、額にうっとうしくはりつく。  あじめて関係をもった少女に別れを告げられたとき、僕の気持ちがわからないと言われた。  『私こと好きだったの?』  そう聞かれて、僕はなんと答えただろうか……。  
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