Daiary

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 覚えてないと言うことは、何か変な言葉でその場を濁したのだろう。  「あれ、あれ、あれ? なんなんだコレは……」  思わず大声で騒ぎたくなる。  頭の中を直接シェイクして、なんでこんな思考をしているのか直接吸い出したい。  頭を冷やしたら、逆に思考が乱れた。  先輩と出会ったのは小学生の頃だ。  そう。あの頃は僕よりも絵が下手だった。  でも身長は高かった。  いつの間に追い抜かれてしまったのだろう?  いつのまに追い抜いてしまったのだろう?  『オレ』はいつから『僕』になったのだろう?  記憶の引き出しが、無造作に開けられていく。  先輩だけは僕に正直だった。  僕も先輩には正直だった。  お互いに秘密がないからこそ、恋愛感情に発展したり、嫌いになることもなかった。  好きが当たり前で、その他はない。  ちょうど姉弟か、マンネリ化した夫婦みたいなものなのだろうか?  こんな可笑しなこばかり考えている僕の仮面を、先輩だけは笑い飛ばしていた。  僕も先輩は意識しないよにしていたのに、いつの間に僕らは大きくなっていたのだろう。  多分、今の僕らはお互いに秘密を持っている。  それを引き出したいからこそ、仲を発展させようとしてしまったのか?  今まで付き合った子を思い返しても、好きというより充足を求めていただけだった。  では、先輩は?  答えがでない。  九九と同じくらいシンプルな問いのはずだ。  あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、  あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、  あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、あれ  あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、あれ  あれ、あれ、あれ、あれ、あれ、あれ?  「……」  パン、と視界が一瞬白くなる。  ・  ・  ・  ・  ・  雷と思ったが、いつまでたっても音がしない。  「……」  雫が細かく飛散し、視界はどこか、夢のように朧気ている。  それに反して体のだるさは際だっていた。  雨がはいりこんで、目の奥が冷えていく。  夏の雨はどこかやさしい。  アスファルトにこぼした水滴のように、思考の水分がすぐに蒸発していく。  「帰って明日の朝食の仕込みだけしてねよ……」  5分ほどそこで立ちつくした後、顔を下げると、遠くの霧雨がヒトカタに切り抜かれていることにきづいた。
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