第2話 あなたの絵を描きたい

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 それはつまりみく先輩には絶対に知られてたくないことなのだろう。  もちろん承諾したために、僕はここに居る。  「おい、見ろよ……」  ぼそぼそとした呟き。  何気なく見ると、ラフな姿の、中学生程度の少年4人が、先生を指さして目配せしていた。  「誰?」  その内の1人が首をひねる。  「商店街の路地奥に住んでる変な絵描きだよ」  「ああ、知ってる知ってる。死んだ女の絵を描いてる変態だ」  「街で人を殺して、逃げてきてるらしいぜ」  「ぐろ!」  ケラケラと、それこそ先生に聞こえてるのではというほどの声量で少年達は笑う。  いつものことと、相手の程度の低さにため息をついて、気にせず足を進めようとすると――、  「でもさ、あいつの娘も結構なもんだぜ」  「?」  足が止まってしまう。  みく先輩のことだろうか。  そのまま自転車に寄りかかって空を見上げる。  「なになに、やっぱイッちゃってんの?」  「まぁ、へへへ……」  「なんだよ」  「そのさ、あいつの娘にしてはすげー可愛いんだけど、やっぱりおかしいんだよ」  1人が、訳知り顔で下卑た笑みを浮かべる。  「なんでもさ、父親のことで迷惑してるとか言うとさ、何でもしてくれるらしいぜ……」  「え?」  (え?)  少年達の呟きと、僕の思考がリンクする。  “なんでも”と言うフレーズの割に、その発言の意図ずる意味は一つだった。  先輩のことを言ってるのかと思うと、胸が悪くなる。  「は、ははは、まさか冗談だろ」  そこまでバカではないらしく、微かな間はあったが、残りのメンバーが苦笑いする。  (まぁ、そうだろうな……)  いくらなんでも、先輩に限ってそんなことはないはずだ。  最も縁遠い話だと思う。  そのまま道夫先生の所に歩きだすが、かなり押し殺した声が続ける。  「はぁ? オレの話を信じねぇのか?」  「いや、だってさぁ……」  「かなりマジな話だって。中学時代に同じクラスにいたんだけどさ、愛想もなくて、魔女って呼ばれてたんだぜ」  ムキになって少年が言う。  なにか、話の風向きがおかしくなってきている。  「じゃあ、オレが証拠を見せてやるって。なに、助けてくれるよな奴もいないし、嘘でも少しからかうだけさ」  クツクツ、と低い笑い声が響く。  「……」  少年達のグループが、のそり、と移動をはじめた。
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