第2話 あなたの絵を描きたい

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 見るまでもなく、先輩の家に向かうつもりだろう。  少し前ならば、先生が家に籠りきりだったので心配はなかった。  だが、最近、先生は外出が多く、現に今、目の前にいる。  遠くの山裾には、黒い雲が見えた。  風は微かに湿り気を帯びている。  蝉の声がとおい。  じっとり、と手の平に汗が滲む。  面白い展開ではない。  「……つまらない」  声に出して確認する。  酷く胸がむかついていて、遊び半分でも先輩の家に近づこうとする連中に吐き気がした。  歩調をゆるめて考える。  人数が多いので難しいが、なんとか出来るかのしれない――。  「……だめだ。全然だめだ」  かぶりを振って、荷物を自転車に戻す。  こんなつまらないことに、先生を巻きこむなんて出来ない。  また、先輩の前にあんな連中を立たせることは、もっと気に食わなかった。  一言で、むかつく。  しかも、どちらが関わった場所でも、肉体的な被害を被る可能性がある以上、自分でやるしかない。  絵描きや音楽家にとっては、怪我の一つが死活問題になる場合もあるのだ。  鞄から画材を幾つか抜き出してポケットに仕舞いこむと、僕は気づかれないように、少年達の影を踏んだ。  「入り口はここだな」 「うへぇ、路地だぜココ。薄気味悪いな」  人気のない商店街で、少年達が歓声を上げる。  僕はこめかみの汗を拭って、声をかけるタイミングを計っていた。  それにしても暑い。  近くの商店にあるアイスのケースが気にかかる。  「でもさ、大丈夫かな……」  「いいじゃん」  「可愛い子を見るだけ」  「そうだ……」  一見して大人しそうだが、リーダーらしい少年が、襟元のボタンをはずして笑む。  「お前等は見てるだけでいい」  「あのさ――」  「……!」  何気なく声をかけただけなのに、びくっ、と彼等が振り返る。  (おいおい、後ろめた過ぎだよ)  バカでも敵対意識がないことを理解出来るように、両手を広げて微笑む。  「誰だ?」  「いや、通りすがりの者だけど、そっちには何もないよ」  「……そうか」  意外に落ち着いた声色で、彼は答える。  その目の冷たさに、ここで声をかけたことが本当に良かったと思った。  「で、その余計なお節介がなんのようだ?」  少年が、目の前まで歩み寄ってくる。  「いや、余計なお節介なんだけ――っ!」  
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