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唐突に腹部に衝撃が走り、視界が転がった。
もう一度衝撃を受ける。
ずるずるとどこかに運ばれて行き、夏の青空の下から、涼しい日陰に連れて行かれた。
酸素を求めて口を開くと、口内に夏の土の味と、血の味が広がる。
殴られたことにそこで気づいた。
「ヘラヘラと笑いやがって」
「お~、怖っ」
頭上から声がする。
(意外と踏みこめるものだ)
さて、どうしようか。
そのままの体勢で考えた。
服の袖に隠した、鉛筆削り用の小刀をおもいだす。
「失礼」
「――!?」
ざわっ、と焦燥が伝播した。
「たてるか」
「……先、生?」
割りこんできた声に顔を上げると、道夫先生がだるそうな表情で僕を覗きこんでいた。
「問題なさそうだな」
「……手ぐらい貸してくださいよ」
自力で立ちあがって、土を払う。
「気づいていたんですね」
「ゆっくり来たのだが、遅かったかな?」
「別の意味では間に合ってます」
血の混じった唾を吐いて、にこりと微笑む。
笑うことに支障がなければ問題ない。
2人のやりとりに何がしか複雑な感情を灯して、少年が僕らを睨め付ける。
「なんだよ!」
あぁ、君がいい。威勢がよくていい」
平静過ぎて、逆に薄ら寒くもある声で、先生はリーダー格の少年に頷く。
「なんだよ」
人数の優劣か、少年は物怖じせず答える。
だが、先生も僕も特に反応はない。
「君、私の絵のモデルにならないかね」
「は?」
「最近、歯ごたえがなくて女性にも飽きててね」
「!」
ざわざわ、と不安の波が伝播した。
彼の絵に描かれるという意味は死である。
「報酬も弾むがどうだね?」
「ばっ――ふざけんな! 誰がお前にてぇな変態に付き合うってんだよ!」
すっ、と何気なく少年の手が伸びる。
だが、それに合わせて先生も動いていた。
瞬間である。
何気なく踏み出された足に、先生が足を合わせると、少年が膝から崩れ落ちた。
何が起こったのか頭が理解する間もなく、何気なく取り出されたペンが、少年の首筋に当てられた。
「?」
少年は、ポカンと目を丸くしている。
あまりにも近すぎて、自分の身に起こっている出来事に気づいていないのだろう。
「少し抗議をしようか」
道夫先生がサングラスをはずして微笑む。
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