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「人物画を描くことは、人体の構造を理解することにはじまる。筋肉、臓器、骨……血管」
つーっ、と首の脈に沿って先生は線をひいていく。
「!? あっ、ああ!」
ようやく自分の状況を察し、少年はガタガタと震えだした。
その様子は、蛙の解剖を思い起こさせる。
僕を含め、誰一人として動けない。
場の支配権は先生のみ。
少年グループの一人がのどを大きく鳴らすのと、どこからか聞こえてくる、野球中継のアナウンスが耳についた。
「関節の動きと、体重や身長の合わせた重心を知れば、バランスを崩すことなど造作もない――」
淡々と言い放ったかと思うと、そこで、先生は僕を見る。
「――」
ほとんど色のない瞳に、射すくめられた。
(……少し講義をしよう、か?)
それは皮肉ではなく、本当に僕への講義なのかもしれない。
だとしたら何故?
僕の無言の疑問には答えず、先生は続けた。
「よく覚えておくと良い。医者の次くらいに、我々は生粋の殺し屋なのだよ」
トン――と少年の背中を押して、先生はペンを懐に仕舞い込んだ。
「あっ! ……はぁはぁ、はは」
少年は地面に四つん這いになり、ぼたぼたと汗で地面を濡らす。
残りの3人も、数歩後ずさると微かな呻きを残して走り去った。
「続きがやりたければ受けよう。私への侮辱も認めよう――」
そこで言葉を切り、先生はサングラスをかけなおした。
「だが、オレの作品に手を出したら殺すぞ」
「……作品?」
僕の呟きに、先生は微かに口元を歪ませて顔を背けた。
ぎりぎり、と地面をはいつくばったまま、少年は道夫先生を見上げている。
なぜか、緊張感が収まらない。
歯車が噛み合わない。
今が夏だと言うこと以外、不確か。
――ポツリ
雨が一滴頬に当たった。
と、僕は見た。
路地奥の美術講の教室の窓が開いている。
カーテンがユラリと揺れて、夏の大気にさざめいた。
その揺らめきの、なんと涼やかなことか――。
「いらっしゃ~い♪」
教室で先生と話をして時間を潰してから、先輩の部屋を訪れると、笑顔が出迎えてくれた。
結局、用事がると言いつつ、何も語ってくれなかった先生に不安を覚えたが、それも、一片の欠片もなく散り飛んだ。
「……こんにちは」
「? どうしたの?」
首を傾げて、先輩が僕を見上げる。
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