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目が覚めた時には既に手遅れで、私は何の躊躇いもなく目蓋を開いていた。現実を受け入れる目で世界を見なければ、私はずっと幸せな夢を見ていられたのに。
自らの迂闊な行動に対して私の体には毛布が掛けられており、取り敢えずは安堵の溜め息を漏らす。
夢はまだ終わっていない。
ぐるりと周りを見渡した。私が布団に包まれて横になっていた場所以外には木箱や新聞などが所狭しと敷き詰められており、床を見ればそれらの間から僅かに畳が覗える。パッと見た印象は物置ではあるが、それでも埃臭いということはなかった。
「起きましたか」
私じゃない、そしてあの男の声でもなかった。
物陰に隠れるように――いや、少しばかり小さいその体はただ座っているだけでも隠れてしまうのか。女の子が一人、少し下がった位置からひょいと顔を出した。
ああ、そこ段差になってるんだ。
「大体半日くらい寝てたよ」
可愛いものでした、と私よりも背の低い少女に言われた。横に並べば私の首くらいかな?
どうやら彼女は読書をしていたようで手に持っていた百科事典ほどの厚さを有する本を一先ず床に置いた。苦にも感じていない表情や本の扱い方を見ていると彼女は本を読むことに慣れているように思える。
本が、好きなのだろうか。
「私は店主を呼んでくるから」
そう言って山積みになった物々を掻き分けながら扉を潜って隣の部屋に姿を消した。ちらりと彼女の背中に羽を見たが、まるで飾りであるかのように使っていない。
変だとは思うものの、自分のことを棚に上げてそんなことは言えなかった。
暫くして、人影が二つ、扉を潜ってやってきた。
まずは先程の小柄な少女がドタバタと入ってくる。『呼んでくる』という言葉から彼女が前に出て誘導していることは当然のようにも思えるが、相手が『店主』だとすれば案内する必要もないのだが――――それより今、床に落ちていたよくわからない機械を蹴り飛ばしたけどいいのかな?
「もう起きて大丈夫なのかい?」
続いて現れた男はそんな言葉を投げかける――――あの時の人だ。森の中で出会い、私を背負ってくれた男の人。おそらく、ここまで運んでくれたのも彼なのだろう。そんな人に対して私は何といえばいいのか。
頭の中で霞がかった思考が渦巻く。自分自身が生み出した螺旋迷宮に飲み込まれそうになりながら、なんとか一つの言葉を吐き出せた。
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