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「ここは――」
何処、と続けたかったが限界だった。刹那、くらりと目眩に襲われ、慌てて腕に力を入れて体を支える。
「無理はしなくていい」
特に慌てた様子もなく、一呼吸の間を開けて、
「ここは僕の店だ、ゆっくり休みなさい」
こうして再び毛布に包まれることになった私の隣に、またも本を持った羽付き少女が付き添う形となった。しかし今回、分厚い本は閉じている。代わりに私を退屈させないように小さな口は頻繁に動いていた。
「気分はいかがですかー?」
水の入った桶に手を入れて、ぎゅっと布を絞る。それを私の目の上にゆっくりと乗せる――――温かい。どうやら冷水ではなく温水だったようで、冷たさを覚悟して構えていた私は少し驚き身震いした。視界が遮られるのは少々戸惑ったが、誰かの声を耳にしているだけで我慢できた。
目が見えないので私は聴力に頼るしかなく、声の行方を探る間に左にいったり右にいったり、更には大小まで加えられていることから、彼女は移動繰り返しているようである。
「……」
そんなこともあったから、いつの間にか物音が消失していたことには不安を感じずにはいられなかった。
――急に静かになったけど、どうしたのかな?
少し気になり、目の上の障害物を右手でずらす。
「……ああ」
てっきり別の部屋へと移動を果たしたのかと思えば、彼女は今もそこにいた――そこにいて、本を読んでいた。
壁にもたれかかり、分厚い本を膝に乗せて、私の視線を感じ取るとこちらを向いてにこりと微笑む。おまけに、「ここにいますからね」とまで言われた。恥ずかしさから毛布の中で足を組みかえる。その際に足が毛布から出たことを確認して彼女は読書を中断して立ち上がり、それを直しに歩み寄る。
「ありがとう、ございます……」
ようやくまともな台詞を口に出せた。これでやっと落ち着ける。
そう考えていた私が眠りにつく前に、うんうん悩んだ挙句、彼女は意味深な言葉を私に投げかける。
「たぶんお礼はいらないよ。全ては成り行き上の出来事だと思うから――」
……成り、行き?
まだ彼女は何かを口にしているようであったが部分部分でしか頭に入ってこない。意識を集中させて耳を澄ますことでなんとか聞こえた言葉は更に私を惑わせる。
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