三年後の化学式

3/5
前へ
/13ページ
次へ
そもそも、大事な物とはどんな物なのか、理解しかねる。 だが、時々ふと思う時がある。 果たして、1号にとって、私は大事な物なのか、と。 「ご主人。」 色々考えていると、1号の声が横から聞こえてきた。 「なに。」 「ぼーっとしてましたよ。」 「そう。」 しばし、沈黙が続く。 「ねぇ。」 私は珍しく自分から口を開いた。 自分でも驚く。 「何でしょうか。」 「町の人にとって、大切な物って、何。」 「…国王、では。」 国王。 今の時代、国王というものが居る。 国王に仕える兵士達は、銃口に刃のついた銃を持ち歩き、国の為、民衆の為、自分の為、なにより家族の為に命を国王に捧げる。 兵士達に何もかも託し、自分は豪勢な食事にありつく。 そんな国王が町の人にとって大切だと、目の前のロボットは言う。 「安易な答えね。」 私は1号にそう言い捨てた。 「なら、あなたの大切なものは。」 「分かりません。」 「そう…私もよ。」 私はそう言って1号に背を向けた。 何故だろう、この時なんだか、胸が妙に痛んだ。 ◇「三年後の化学式」◇
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加