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「駅、こっち。」
直人くんはさっき車で通り抜けた道を歩いて進む。
私と彼は隣同士。
けれど、すぐに二人の体が前後する。
男の人の歩幅は広い。
特に常に時間に追われているようなタイプの人間は歩調も速いというのが私の勝手な見解だ。
直人くんはそのタイプに分類されそうだった。
私は彼に手を伸ばす。
今はカメラバッグはないけれど
私は彼のシャツを小さくつまむ。
「…お願い。もう少しゆっくり…。」
「あ。ワリイ。ワリイ。」
彼はまた私の靴に視線を落とす。
「しっかし…、かわいそうな靴履いてんな。」
「…うん。今日はパーティーだからと思って。私もこの高さのヒールは履き慣れてないから…。ごめんね、遅くなっちゃう?間に合うかな?」
「それは大丈夫だけどさ。女は大変だねえ。」
「…ホントだよ。」
この日は風がきつかった。
通りの街路樹は枝を大きく揺らし、
立ち並ぶ店の幟(ノボリ)はバサバサと音を立ててはためいていた。
私のスカートもその風を受けて何度もめくりあげられる。
私はスカートの裾(スソ)を手繰って片手で握った。
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