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彼は落ち着かなそうに、早いペースで煙草を口に運んでいた。
忙(セワ)しなく煙を吐き出しては、また何かを求めるように煙草を口にした。
思春期の頃とは違う。
初めて見る彼の仕草だった。
煙草を吸わない私にも、彼の吸い方を見ればわかってしまう。
彼はヘビースモーカーの部類に入るのではないだろうか。
彼は最後に大きく息を吐き出して煙草を地面に落とし、さっきと同じように靴底で火を消した。
吸い殻はそのままだった。
彼はやっと落ち着いたみたいだった。
「近くに車止めてんだ。急な仕事だったから車で来てさ。夕飯はせっかくだから一緒に飲みたいし、一回、家に車置きに行っていい?」
「…うん、いいよ。」
私は返事をした。
会って間もなく、
彼の家に行くことになるなんて思ってもみなかった。
「車、こっち。」
彼はくるりと体の向きを変えて歩き出した。
普段ならついていけるスピード。
なのに、このパンプスが私の足を引っ張っている。
私は彼と開(ヒラ)いてしまった距離を小走りで埋め、彼のカメラバッグのベルトを遠慮がちに握った。
「…お願い。もう少し…ゆっくり歩いて。」
「あ…。ワリイ。」
彼は私の足元に視線を落とした。
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