1760人が本棚に入れています
本棚に追加
彼のカメラバッグに触れるだけで
思いのほか緊張して
心臓の動きが乱れていた。
彼が私に謝って、あからさまに歩幅を狭(セバ)める。
「なんか俺…じいさんになった気分。」
彼が笑うその距離は
自分がお願いしたにも関わらず、近すぎて驚いた。
「…今日一日、そうしてなよ。“直人おじいちゃん”。」
「あ、じゃあ知らねえ。」
直人くんは大股で歩きだした。
「待って!冗談だから。」
私はもう一度カメラバッグに手を伸ばした。
「ウソだよ。冗談。」
彼が笑って振り返る。
昔、教室で話したあの距離よりずっと近かった。
「なあ、パーティー楽しかった?」
「うん。果歩がよろしくって言ってたよ。」
あれから10年よりも長い年月が経っていたなんて…
信じられなかった。
最初のコメントを投稿しよう!