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車を出したのはいいけれど、行く手の道は渋滞していた。
「結構混んでんな…。普段こっちの方来ないからわかんなかったけど。」
「普段、出勤は車じゃないの?」
「いや、車。終電にも乗れねえし。」
「え、そうなの?」
「ほとんど毎日そんな時間。俺、そのうちデスクで死ぬかも。」
直人くんは笑った。
でも私はほんの少しだけ知っていた。
果歩から聞いていたのだ。
編集社の仕事はかなり過酷だと聞いた。あの果歩でさえ真似できないと言っていたから相当なものだと、何もわからないなりに想像はしていた。
「今日みたいに急な仕事もよく入るの?」
「今日のは急すぎだな。うちで契約してる女優の取材。本当は別の奴が行くはずだったんだけど、その子が俺が行くと思ってたみたいで、へそ曲げてさ。俺もオフだったし顔出して来たってわけ。」
…女優。
直人くんの書き込みに出てくる若い女の子の顔が浮かぶ。
あの画像も…
直人くんが撮ったんだ。
今さらながらにそんなことに気が付いた。
彼のカメラ…。
今は後部座席にあって、視界には入らない。
あのカメラには…
女の子の笑顔がいっぱい詰まってる。
直人くんは彼女たちからあの笑顔を引き出して
カメラを構えて彼女たちと同じだけ笑ってる…。
単なる想像。
勝手な妄想。
だけど、
小さな嫉妬心が
彼との会話を途切れさせていた。
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