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「はい」
「はい、じゃなくてさ……。はー、でもまあ、引くに引けない事情もあるよな。仕方ない。無茶をどうにかするのが本当のプロの仕事かもしれないしな。やるよ。もうあの坊主姿にも慣れて来たし。切り替えて」
「ありがとうございます!」
「よし、いいものつくろう」
「はい!」
撮影の準備も終わったようで、スタッフたちがセットの外へ出て行く。
静まり返るスタジオ内。
「それではテイク24、いきます!」
スタッフが声を張り上げる。
阿部はまた集中して中年のガンマンの役に入り込み、今度は見事に演じきった。
そして今日、待ちに待った放映を自宅のリビングで見終わったところだ。
あの例のシーンがどうなっているか。
自分なりに渾身の演技が見れるのではと期待をしていたが、阿部の顔は暗かった。
ため息をついてテレビのリモコンをソファーの上に投げる。
そして、背もたれに身を預けてつぶやいた。
「まるまるカットされてんじゃねえか」
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