三峰行

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 「此処できっと殺されたんだ。死亡推定時間からみても間違いない」 駐車場で翔が言う。 「車にシートを敷いてカーペット……」 「ふふ、馬鹿ね」 陽子は翔の無鉄砲な推理を否定した。 「御両親共、自ら車に乗ってくれたなら犯行は可能だけど」 「殺されるって分かっていてそれはないな」 翔は腕を組んだ。 「何かあるはずだ。きっと此処だよ。絶対此処なんだよ。電気製品で体を暖めていないんだから」 翔は独り言を言い始めた。 「一体どうやって殺したんだよ」 不気味な目で陽子をじっと見つめてる翔。 ――ゾック!? 陽子は震え上がった。 でも平気な顔を装った。 それが精一杯だった。 でも翔は動じない陽子の態度を見て、此処が殺人現場ではないと感じたらしかった。 翔は本当は知っていた。 両親を殺したのは自分だと言うことを。 それなのに、殺害方法もその現場さえも解らなかったのだ。 でも、どうしても翼を犯人に仕立て上げなければならなかった。 摩耶を殺人者の妻にしないためだったのだ。 翼は翔になる時に摩耶にも睡眠薬を飲ませていた。 そのために摩耶は熟睡してしまったのだった。 翼と翔。 同一の体でありながら、精神は全く別の人格だったのだ。  二人は武州中川駅に向かった。 陽子の実家の駐車場が殺人現場ではないと感じた翔。 でもあのステーションワゴンなら可能だと思った。 だから此処へきたのに…… 翼と陽子のアリバイ。 此処に確かに居たから証明された。 だから彼処で殺害したと思ったのだった。 追求を諦めて、もう一つの目的を果たすためだった。  三峰口到着をカメラに収めようとするためなのか? 三脚は既に用意して席に座っている人達が大勢いた。 「これもSLの撮影をするためか?」 又腕を組む翔。 武州日野・白久・三峰口。 電車は否が応でも陽子を運ぶ。 その先に何が待ち構えているのか。 陽子はその答えを知るのがとてつもなく怖かった。 それでも翔と、其処に住むであろう翼を陽子は見つめ続けた。
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