三峰行

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 その頃上町の日高家では、狭い路地に入って来た植木屋の車がユーターン出来ずに困っていた。 見かねた摩耶は、駐車場を使って良いと申した出ていた。 昔アパートだった日高家。 家だけでなく、駐車場も広かった。 「奥さん、いやお嬢さんかな? いい人だね。よし! お礼に何か植えてってあげよう」 摩耶は手招きしていた手を止めた。 「うーん。そうだ、南天ある?」 車から降りて来た植木屋に摩耶は声を掛けた。 「あるよ!」 植木屋は手にコンパスを持ち、北東に向かった。 「ところで何故南天?」 「だって難を転化するって言うし」 摩耶は植木屋の質問に答えた。 「いやー、いい事言うね」 そう言いながら庭の隅を掘り出した。 そこはかって陽子を睡眠薬で寝かせた後孝が佇んでいた所だった。  「ギャーー!!!!」 突然植木屋が悲鳴をあげて腰を抜かした。 慌てて摩耶が駆け付けて、植木屋が指差す先を見た。 そこには埋められた翼の小さな指が見えていた。 そしてその指の先には、白骨化した手があった。 翼の指は、その手の上に添えられていた。 まるで握り締めているかのように。  一時間後。 三峰神社のバス停から二人は乗車した。 途中で止まるのは、温泉施設と秩父湖。 その次の大輪停留所で、翔と陽子はバスを降りた。 三峰神社の表参道。 ロープウェイ大輪駅に続く鳥居。 (又どうにか脇をすり抜けなくちゃ) 陽子はそんなことばかり考えていた。 幾つかの土産物屋が軒を並べていた。 まだ営業している店もあった。 陽子の手を引いて歩き出す翔。 仕方なく後に続いて歩く陽子。 知人宅の横を通る。 友達のお母さんと目が合い思わず会釈した。 そんな陽子を翔は睨みつけた。 懐かしさよりも、重苦しさが陽子の気持ちを曇らせていた。
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