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彼女は、雨の降りしきる街中を傘もささずに1人佇んでいた。
傍らには小さめのカバンが一つ。
右手にはずっと握りしめたままの、携帯。
時刻は深夜を回っている。
五月になったばかりで暖かくはなり始めていたが、さすがに夜は冷えている。
雨に濡れた身体では、尚更だった。
それなりに栄えた街なので、こんな時間でも行き交う人は少なくなかった。
だが、誰もがまだ若い彼女に気付くことなく通り過ぎる。
手に持っていた携帯が滑り、パチャリと音を立てて地に落ちた。
それを彼女は濡れた虚ろな瞳で見つめ、顔を上げた。
「あたし、ひとりぼっちだ……」
暗くなり始める前から彼女はずっとここにいた。
待ち合わせをしていたが、相手が来なかったのだ。
信じた自分が愚かだった。
あんな人を、何故信じてしまったのか?
最後の最後まで信じて、結局簡単に裏切られた。
彼女はひとりぼっちになった。
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