プロローグ

2/3
571人が本棚に入れています
本棚に追加
/213ページ
彼女は、雨の降りしきる街中を傘もささずに1人佇んでいた。 傍らには小さめのカバンが一つ。 右手にはずっと握りしめたままの、携帯。 時刻は深夜を回っている。 五月になったばかりで暖かくはなり始めていたが、さすがに夜は冷えている。 雨に濡れた身体では、尚更だった。 それなりに栄えた街なので、こんな時間でも行き交う人は少なくなかった。 だが、誰もがまだ若い彼女に気付くことなく通り過ぎる。 手に持っていた携帯が滑り、パチャリと音を立てて地に落ちた。 それを彼女は濡れた虚ろな瞳で見つめ、顔を上げた。 「あたし、ひとりぼっちだ……」 暗くなり始める前から彼女はずっとここにいた。 待ち合わせをしていたが、相手が来なかったのだ。 信じた自分が愚かだった。 あんな人を、何故信じてしまったのか? 最後の最後まで信じて、結局簡単に裏切られた。 彼女はひとりぼっちになった。
/213ページ

最初のコメントを投稿しよう!