あたしを縛る甘い鎖

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音が聴こえる。 ひどく澄んだ、綺麗な音。 明里はゆっくりとまぶたを上げた。 どうやらあのまま眠ってしまっていたらしい。 辺りは真暗で、もう夜だということが知れた。 けれど、ほんわりとした明かりがどこかで灯っている。 ギシギシに固まった手足を伸ばしながら、明里は音のする方を見た。 それは光源の方向でもあった。 響の寝室の戸が開いている。 真黒なピアノの前には、いつの間にか帰宅したらしい響が座っていた。 明里は首を捻りながら、まだ微睡んだ頭でぼんやりと考えた。 (響って、こんな綺麗な音を出すんだぁ……) なんてやわらかくて優しい音を出すのだろう。 誰もがうっとりするような、魔法のようにキラキラした音。 けれど、時折切ない音が混じる。 練習なのか、響は何度も同じところを繰り返し弾いていた。 タッチを変えたり、ペダルの踏むタイミングを変えてみたり、間の取り方を変えてみたり。 微妙な違いは明里にはよくわからなかったが、だんだん、辛そうな音になっている気がする。
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