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誰にも聞こえないような小さな声で呟いた彼女は、糸の切れた操り人形のように倒れていく。
すぐ隣を歩いていた女性は「きゃっ」と小さく悲鳴を上げたが、それだけだった。
冷たい雨は体温を奪い、総てを無くしたココロは空っぽだった。
(もう、いいや)
彼女は薄っすらと笑う。
身体は寒いのに、熱くて堪らなかった。
(……誰にも必要のない存在なら、あたしなんてもう、いらないょね?)
きっとこのまま瞼を閉じれば、この生を終わらせられるだろう。
ちょうどいいじゃないか。
父親が亡くなって母親と生活するようになってからは、ロクな人生ではなかったのだから。
どう終わろうが変わらない。
そう思ったら、自然と全身の力が抜けていった。
雨ではない水滴で濡れた瞳は揺れて、世界が歪む。
(一度でいいから、抱きしめてほしかったなぁ……)
そんな願いすら、叶うことはなく。
彼女は自分を嘲るように笑って、意識を離した。
離す寸前、誰かの声がした気がしたが……気のせいだろう。
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