あたしを縛る甘い鎖

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音が聴こえる。 ひどく澄んだ、この世のモノとは思えないような、美しく優しい音色。 彼女はその音色に誘われて、まつ毛を震わせる。 薄暗闇の世界をぼんやり見た。 (ここ、どこ?) 知りたくて、彼女が身体を起こそうとすると、節々が痛くて上手く動けなかった。 「ん……」 あまりに不自由な身体に小さく声を漏らして眉根を寄せた、刹那。 頬に生暖かい濡れたモノが滑った。 「っ?!」 彼女は大きく身体を震わせ、息を詰めると、 「わふっ!!」 その、近くにいた何かが鳴いた。 次いで音が止み、やわらかな声が落ちてくる。 「ロッソ?」 その声に、彼女はだれ? と問おうとした。 だが唇が微かに動いただけで、上手く声が出ない。 (だれ? ここは……どこ?) 天国だったらいいのに。 地獄だったらどうしよう? 彼女はゆっくりと瞬きながら、そんなことを考えた。
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