あたしを縛る甘い鎖

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不意に誰かが額に手を当てる。 その手の心地よさに、彼女はほっと身体の力を抜いた。 「まだ熱があるね。でも、意識が戻ってよかった。安心したょ」 声の主はそう言って彼女の頭をサラリと撫でた。 優しいその手付きがあまりに甘くて、そんな心地を初めて知った彼女は、無意識に涙を流していた。 「うん? どうしたの? どこか痛い?」 問われて、彼女は違うと首を振る。 「そう。怖がらなくていいよ。大丈夫だから。 さぁ、もう少しおやすみ。明里(あかり)」 今、名前を呼ばれた気がする。 けれどはっきりとしない意識の中では、それを考えられるだけの思考もなくて。 とろとろと溶けるように、彼女はまた瞼を下ろした。
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