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ここへ引っ越して来て、最初はお爺さんの手前だったからか、永田はやけに親切だった。
荷物を運ぶのも手伝ってくれて、電気系に詳しいからって、テレビや冷蔵庫の配線とかも上手に備え付けてくれた。
お爺さんは、自慢の孫だと誉めていたけど。
それは確かだと思ったのが、今じゃ大きな間違いだった。
頼りになる。
無口だけど、親切。
顔が、カッコいい。
スタイルがいい。
見た目バッチリだとか思っていた。
だけど、中身は本気で最悪なんだって分かった。
私の顔見たら、説教ばっか。
言い方が、ひどすぎる!
結局、自分から敵を作って疎外していく俗に言う陰湿陰険なんだって。
配線だとか、パソコンだとか、ネットだとか、そう言う暗い…暗ーい!事ばかり、専門で、頭ん中に詰め込んで。
満たされない欲求を、私にひどい言葉で、晴らすみたいな。
でも、この家の所有者である永田には、逆らえない。
逆らえば、本当に住む場所を私は無くしてしまうから。
キツイなぁ~。
と、仕事先の休憩中にメールが入る。
別れた旦那からだ。
「今晩、夕食どう?」
…この言葉に釣られて、メールを送り返す。
「うん、いいよ」
今月は引っ越したばかりで、金銭面でかなりシビアにヤバいんだよね。
もう、見栄も何も捨てなければ人間は、食い忍んでいけないからね。
別れたばかりの旦那に、食事をすがる自分の図々しさにも、情けない限り。
夕方に仕事が終わるから、一旦帰宅して、着替えてから行こう。
意外に思うのは、こうやってメールで食事の約束をして、着て行く服を選びながら約束の時間まで待つ。
それが何だか、凄く新鮮に感じられる事なのだと思った。
夫婦はいつもどこでも、一緒に行動するから、近況報告なんてうざいだけ。
見て、分かんだろ?
って言われれば、それまで。
だから、そのうち会話も続かない。
つまんないって、生活してるうちに思い始めたこと。
それは、私は結婚して夫婦よりも、適度な距離感がある恋人同士の方が、性格的に向いているんだってこと。
19時頃に、家の近くで待ち合わせ。
メールで、
「もうすぐ着く」
ってさ。
今夜は何を食べさせてくれるんだろうね。
私はオンボロアパートの部屋に鍵を掛けて、庭を通り抜ける。
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