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振り返る瞬間に、私は湯船から飛び出して、その背中に抱き付いた。
「ね、永田。今夜一度だけ私を抱いて欲しいの」
「えっ?」
意外に、永田は戸惑った表情をした。
「…はぁ~っ…」
深い溜め息を付いて、仕方ないという感じで返事をされた。
「分かった」
今夜の私はおかしい。
おかしくならなきゃ、元旦那とキスした自分が消えていかない。
それが、どうしても嫌で。
早く、それを記憶から消し去りたい。
初めて入る、永田の寝室。
広いベッド。
ディスクトップのパソコン。
何だか訳分かんない参考書みたいな本と、投げ捨てられたいつもの仕事着の作業服。
要るものしかない。
不必要なモノすらもない。
何ともつまらない部屋。
「あんま見るな」
と、部屋の電気を消された。
永田はベッドに横になって、私を呼んだ。
「とりあえず、こっち来い」
そのまま押し倒されて、口唇で首筋を辿られる。
「元旦那にキスされて、悶々としちゃったのか?」
「えっ…、何でそれ」
びっくりするなぁ。
何で知ってんだよ。
「窓から見えた」
「やっぱり変態。ねぇ、永田にお願いがあるの」
「図々しいな、何度も」
確かに図々しいよ、今夜の私は。
「口唇にキスして欲しい」
「はいはい、口唇ねぇ…」
露骨に面倒臭い顔をされたけど、まずは何よりもキスの感触を消したいの。
「旦那のキスじゃ嫌なのか?」
頷こうとした時に、口唇を下から上へと持ち上げられてキスされた。
チュッ…
「トシコの元旦那と俺は間接キスか。ざけんじゃねぇ…」
永田はまた大きく口唇を塞いで、一気に深いキスをしてきた。
…んんっ!!
コイツ、ヤバイかも。
キスが、うますぎる!
絡みつく舌の動きが、今までに体験した事のないくらい、私には優しく心地が良かった。
コイツの吐き捨てる毒舌が、嘘みたい。
唾液がこぼれそうになる寸前に、漏れないように口の中で吸われて飲み込まれる。
激しく、優しくを交互に繰り返すから、苦しくもない。
ダメだ、私…。
溶かされる。
ドロンドロンに溶かされる。
ただの変態だと思って、コイツをなめていた。
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