step3 甘えんな

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振り返る瞬間に、私は湯船から飛び出して、その背中に抱き付いた。 「ね、永田。今夜一度だけ私を抱いて欲しいの」 「えっ?」 意外に、永田は戸惑った表情をした。 「…はぁ~っ…」 深い溜め息を付いて、仕方ないという感じで返事をされた。 「分かった」 今夜の私はおかしい。 おかしくならなきゃ、元旦那とキスした自分が消えていかない。 それが、どうしても嫌で。 早く、それを記憶から消し去りたい。 初めて入る、永田の寝室。 広いベッド。 ディスクトップのパソコン。 何だか訳分かんない参考書みたいな本と、投げ捨てられたいつもの仕事着の作業服。 要るものしかない。 不必要なモノすらもない。 何ともつまらない部屋。 「あんま見るな」 と、部屋の電気を消された。 永田はベッドに横になって、私を呼んだ。 「とりあえず、こっち来い」 そのまま押し倒されて、口唇で首筋を辿られる。 「元旦那にキスされて、悶々としちゃったのか?」 「えっ…、何でそれ」 びっくりするなぁ。 何で知ってんだよ。 「窓から見えた」 「やっぱり変態。ねぇ、永田にお願いがあるの」 「図々しいな、何度も」 確かに図々しいよ、今夜の私は。 「口唇にキスして欲しい」 「はいはい、口唇ねぇ…」 露骨に面倒臭い顔をされたけど、まずは何よりもキスの感触を消したいの。 「旦那のキスじゃ嫌なのか?」 頷こうとした時に、口唇を下から上へと持ち上げられてキスされた。 チュッ… 「トシコの元旦那と俺は間接キスか。ざけんじゃねぇ…」 永田はまた大きく口唇を塞いで、一気に深いキスをしてきた。 …んんっ!! コイツ、ヤバイかも。 キスが、うますぎる! 絡みつく舌の動きが、今までに体験した事のないくらい、私には優しく心地が良かった。 コイツの吐き捨てる毒舌が、嘘みたい。 唾液がこぼれそうになる寸前に、漏れないように口の中で吸われて飲み込まれる。 激しく、優しくを交互に繰り返すから、苦しくもない。 ダメだ、私…。 溶かされる。 ドロンドロンに溶かされる。 ただの変態だと思って、コイツをなめていた。
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