875人が本棚に入れています
本棚に追加
私は、トイレに行きたくてアパートの裏手にある一軒家へと駆け込んだ。
裏庭を通って、裏手の扉から私はいつも入るのを許されている。
「お、お邪魔します!」
トイレに行きたくても、頻繁に借りるのが嫌で我慢する。
だけど、我慢できなくなった時は、やむを得ず駆け込むのだ。
私は慌てて、トイレへと直行した。
もっ、漏れるーっ!!
戸すら半分開けたまま、綺麗な洋式トイレの便座を勢いよく開けるなり、さっさと済ます。
…スッキリしたぁ。
私は、パンツもジーンズもしっかり履いて、トイレから出る。
すると、壁にもたれながら、相変わらず殺気だった視線ビームで、私を呪い殺そうとしている奴が居る。
「イマイチ、色気にかける」
「知るか」
「そんな口の聞き方したら、もうトイレは貸さんぞ?」
「う…すいません」
嫌な奴だ。
「いいか、おまえは俺の所有している犬小屋アパートに格安で住む、訳有りの女。爺さんの好意で、おまえのワガママな条件を呑んで住まわせてもらってる。要するに拾われたペットを、またペットとして引き取ってやったようなもんだ」
コイツはどんだけの毒舌術。
普通の話し方が、できんのかい。
イチイチ、嫌な言葉を入れ混ぜる。
魔物だ、魔物。
人間の顔した悪魔だ。
「躾がなっとらん、おまえの以前の旦那は相当、おまえを甘やかしていたんだな。おまえのその生きざま、俺が全否定で躾てやる」
「…いらん世話じゃ」
「おい、今なんつった?」
私は立ちはだかる、長身の痩せマッチョの腕をくぐり抜けて、自分のアパートへと戻った。
バカか。
ふざけんな。
おまえは、一体どんだけ何様きどりなんだよ。
躾だってさ。
私の事、全否定だってさ。
何も私の事情も詳しく知らないで。
私の事を知ったように言わないでよ、バカ!
……。
35歳にもなって恋人でも何でもない男に、言われたい放題。
色気ないってさ。
色気!?
おまえにゃ、出してないだけだよ!
ここへ来て、まだ1ヶ月もたってないのに。
優しさの欠片もないんだから。
嫌いだとか、面倒なら、ほっといてくれたらいいのに。
意地悪するなら、もっと普通に堂々と意地悪してくれたらいいのに。
無視しろ!無視!
構うな!
最初のコメントを投稿しよう!