冬桜

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男の子はベッド横のパイプ椅子に座るとランドセルから何やらノートらしきものを出して母親に見せている。 点数でもよかったのか、誉められてにっこりと笑った。 「ちいちゃん。あの子、いつも来てるの?」 親子の会話の邪魔にならぬように、小声で聞く。 「そうよ。毎日。」 続く言葉では、学校帰りに病院に寄り、姉が迎えに来るのを待ちながら、ああして病室で過ごしているらしい。 がさごそと音がするのに振り向けば、ノートをランドセルにしまいこみ、今度は色鉛筆を出し絵を描き始めた。 「あ…!」 カシャンと音をたててケースが落ち、ころころと病室中に色鉛筆が散らばった。 「はい。」 数本拾って渡すと 「ありがとう。おにいちゃん。」 一瞬驚いたような顔を見せたが、さっきとは違い、照れを覗かせた笑みでお礼を言う。
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