冬桜

12/28
前へ
/172ページ
次へ
「広瀬さん、検査の時間です。」 「あ、はい。先生。」 突然、入ってきた主治医らしき男性の声にびくっとする息子を撫でながら、すぐ終わるから待っていてと言って、女性は医師と共に出ていった。 それでも慣れっこなのか、また大人しく絵を描き始めた。ピンク色に塗っているのは何の花だろう。 そっと覗きこむ。 「それ、桜だね。絵、上手いんだね。」 ようやく警戒心を解いたのかのように、屈託のない笑顔が返された。 「うん。桜の花ね、おかあさんが好きなの。」 どうやら、母親が好きなものを誉められて殊更に嬉しかったらしい。
/172ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加