58人が本棚に入れています
本棚に追加
そこは地元でも有名な桜の名所。
けれど、「花も咲いてこそ桜」ではないが、春以外の季節にはたいてい、ただの並木道としか思われない。
赤くてきれいだけど、でもやっぱり花の方がきれいだな。
考えることは皆同じなのだろう。数ヵ月前には花見客で賑わうそこは、今は酔狂な老人がたった一人、絵筆を取っているだけ。
やがて季節が進んで裸木になれば、誰も見向きもしなくなる。
ノロノロとしか動かない背景も見飽きて、体を元の位置に戻した。
「退院、間に合わなくなっちゃうんじゃない?」
「大丈夫よ。ちょっと待たせちゃってるけど。ここを抜ければすぐ着くわ。それにしても動かないわねぇ。」
更に続く母のぼやきに溜息を吐いて目を閉じた。
最初のコメントを投稿しよう!