冬桜

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そこは地元でも有名な桜の名所。 けれど、「花も咲いてこそ桜」ではないが、春以外の季節にはたいてい、ただの並木道としか思われない。 赤くてきれいだけど、でもやっぱり花の方がきれいだな。 考えることは皆同じなのだろう。数ヵ月前には花見客で賑わうそこは、今は酔狂な老人がたった一人、絵筆を取っているだけ。 やがて季節が進んで裸木になれば、誰も見向きもしなくなる。 ノロノロとしか動かない背景も見飽きて、体を元の位置に戻した。 「退院、間に合わなくなっちゃうんじゃない?」 「大丈夫よ。ちょっと待たせちゃってるけど。ここを抜ければすぐ着くわ。それにしても動かないわねぇ。」 更に続く母のぼやきに溜息を吐いて目を閉じた。
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