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「見つかってないんだよ、まだ。殺された被害者の身体の一部が。」
芦原は低い声でそう言うと、ジーンズのポケットから手帳を取り出した。
「ほら、これがその時の切り抜き。」
色褪せた雑誌のスクラップ記事には『バラバラ殺人』の見出しが。
カトリーヌは口を押さえると、突然厨房に向かって走り出した。
「管理人さん!すみません…私、急用を思い出して。今すぐ帰りたいんです!!」
そこまで怖いだろうか?
「ねぇ、芦原さん。貴女相手を見てものを言うべきだったんじゃない?」
私はあきれて忠告したが、芦原はにやにや笑うだけ。
なるほど。
オカルト・マニアってわけね。
いい御趣味だわ。
「お客様。申し訳ございませんが、あのバスが本日の最終便だったのでございます。」
厨房から、管理人さんの抑揚のない声が聞こえてきた。
「じゃあ、タクシーを呼んでよ!!」
カトリーヌはよほど怖いのだろう。
管理人さんに掴みかかりそうな勢いだ。
「それは、無理です。」
管理人さんは、きっぱりと言った。
「先程の電話…あれは警察からのものです。この嵐で視界が悪く、皆様が乗ってきたあのバスは帰り道、誤って谷底へ落ちてしまったそうです…。この嵐の中、決して外を出歩かないように、と言う通達でした。」
「そ、そんな…。」
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