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管理人室の前には先客がいた。例の、スーツを身につけた、性格のキツそうな女性だ。
「携帯を使おうとしたら、圏外だったの!」
彼女は、ドアの前で立ち往生していた。
「さっき電話が鳴ってたでしょう?借りようと思って来たけど、いないみたい。」
私は鳥澤と顔を見合わせる。
嫌な予感が胸をよぎった。
「ドアを破るか?」
鳥澤の提案に、頷きかけたその時。
「すみません、お待たせしたようですね。」
雨合羽を着た管理人が現れた。全身、ずぶ濡れである。
「この嵐の中、外へ?」
私が尋ねると、彼は困ったような顔をした。
「実は…大変申し上げにくいのですが、電話線が切られておりまして…。」
「そんな…困るわよ!」
女が悲鳴をあげる。
「外部と連絡が取れないなんて…!あまりに酷すぎるわ!貴方の不手際よ!」
「…やられたわ。完全に閉じ込められたわね。」
私は鳥澤に呟いた。
「貴女、無線とか持ち込んでないの?一応聞くけど。」
「そんな怪しいもの、持ってないよ。」
闇の組織が聞いてあきれるわね。
「管理人さん。とにかく、風邪を引くから、着替えてらっしゃいよ。」
私は女を無視して、そう言った。
女が、鋭い視線を投げてよこす。
「邪魔しないでくれる?」
私は臆することなく、女を見返した。
「こういう状況下で、病人を出すことは不利になるわ。嵐が止めば、誰かが探しに来てくれる。今はそれを待つしかないということよ。…少し、大人になったら?」
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